前澤の100万円
「RTすればあなたにも100万円のチャンス!!」
''ボタンを押せ!!''
「っんだの、緑カットインかよ…」ぐらいの信頼度だ。
前澤社長が100万円を配っている。自宅の錦鯉に餌を与える感覚だろう。僕らは錦鯉にならないか?と誘われている。今はそのチャンスなんだ、と。
僕は23歳だ。金に困っている。というか、この歳でゆとりある生活を送れている人がいるだろうか。いたとしても全体の数%程度だろう。
そういえば以前も前澤さんは金を配っていた。
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「注目されたいんだと思う」
一人の女が、ワイングラスを回しながら言う。
「そうですよね」
僕も、皿の上に乗ったチーズに手を伸ばす。
このバーで流れるのは、日にもよるがJazzだ。マスターが選曲している。R&BとJazzを合わせたような、落ち着いた雰囲気の音が流れている。
「寂しいんじゃないかな」彼女は紅いリップを口に蓄える。
「寂しい…んですかね?」
「そうよ。注目されたいってことは、寂しい証拠よ。ましてや普通の人間は、金を配らないもの(笑)」と、彼女は笑いながら言った。
僕もそれにつられて笑ったが、すぐに元の表情に戻った。
タバコの煙が夜に染みる。
僕はなんとなく、それとなく、始めからなかったかのように、前澤のフォローを外した。
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